――夜のビル街調査にて――
ホタル
ここだね。例の異常がやたらと現れるっていう場所。
ハチ
……この時間帯では誰もいませんが、普通のビル街ですね。
ホタル
特にビル同士の間、この通路の先での遭遇が複数報告されてるね。
まだ分かっていないことも多いから……ハチクンとリンクン、特に気をつけてね。
ルヒト
了解。
遠くの喧騒は聞こえるものの……さすがに静かですね。
ガジロ
俺は手ぇ出さねえからてめえらで頑張れよ。
ルヒト
手を出さないのはいつものことじゃないですか。
ホタル
あははっ、大丈夫だよー。そうは言ってもサギリは面倒見が良いからね。
そうそう、何かあったらすぐ報告してね。サギリでも僕でも大丈夫だよー。
ハチ
了解です。
……トリガーは鏡、でしたか。
ホタル
配信ではそう言ってたね。
けど、鏡なんてアパレルショップにもレストルームにもあるのに、そっちは今のところ報告が来てないね。
ルヒト
なんだか異常が発生しすぎるのを避けているようにも感じますね。
ホタル
お、リンクン。いい視点だよ!
ゲームと謳うからには、バランスを気にしてるのかもしれないね。
ハチ
ゲームバランス……。
一ヶ所に出現が偏ることも、あまり良いとは思えませんが。
ルヒト
案外私達のことを意識してるのかもしれませんよ。
だってほら、一箇所で発生したらこうやって調べに来るでしょう?
ハチ
こちらと遊んでいるつもりということですか。
ホタル
そうだね、ハチクン。その可能性はあるねー。
何なら、僕らのことを歓迎してくれるかも――ね?
(微妙にずれた足音があることに気が付き、歩みは止めないままガジロに視線を向ける)
ガジロ
……。
(意図を把握し、同じく歩みを止めないままホタルに視線を返す)
ルヒト
遭遇しなかったら明日も調査に来るんですか?
ホタル
んーん、“今日出てこないなら、もう来てあげない”かなー?
ハチ
……。
(言い方に引っ掛かりを覚えて隣のルヒトを見る)
ルヒト
(ホタルの言葉の意味を理解し、ハチの視線に微笑み返す)
“遊んであげられるのは今日だけ”ということですね。
ホタル
そうだねー、今日来ないなら残念だけど仕方ないかなー? ね?
ハチ
……今なら遊んであげられるのにー。
(ルヒトの表情で察して、ホタルに同調して棒読みで呼びかける)
ガジロ
(物言いたげに軽く口を開き、しかしすぐに閉じる。手を出さないと言ったからには口も出さないつもりだ)
ルヒト
……来ないということは、私達を怖がって出てこられないのでしょうか?
ホタル
もしかしたら、遊ぶならみんなで、ってことじゃない?
(ガジロをちらりと見て笑みを浮かべる)
ガジロ
は? なんでだよ俺は非戦闘員だぞ。
……それとも、俺になら勝てるとでも思われてんのか?
異常っつーからどんなもんかと思ったが、随分みみっちぃな。
俺でも勝てそうだ。
ホタル
――ほら来た。
(足音がハッキリとしたタイミングで振り返り、ガジロを背に庇う位置に立ち直す)
???
いいじゃん、やってみなよ。勝てそうだって? 遊んでくれるんだろ? 楽しませてよ。
(四人の後方、暗がりの中に誰かが立っている)
ホタル
……うわ。
(自分とそっくりな顔をした相手に複雑そうな表情)
ルヒト
気をつけてください。もう一人います。
???
……。
(偽ホタルの後ろで中腰になって隠れている)
ハチ
……。
???
ど、どうして睨むんですか……。
(ハチに睨まれてビクついている)
ハチ
……あれって私ですか。
(表情が違いすぎて思わず聞く)
ルヒト
姿はハチですね。
ですが……キリツボさんもハチも、表情がまるで違う。これはもうほぼ別人です。
そちらのお二人は……えーっと、なんとお呼びすればいいですか?
ホタル
そうだねー、僕とハチクンってことは……ガラスでも大丈夫ってわけかー。
姿が映れば『鏡』判定なのかもね。
(自分とハチの立ち位置が、ガラス張りのビル側であることを確認)
偽ホタル
はぁ? なに、お前。
偽ハチ
ひっ……。
ホタル
あははっ、呼び名かー。
うーん、リンクンが名付けてあげていいよー。
ルヒト
私がですか?
……「ドッペル・キリツボ」「ハチ・ジュニア」はどうですか?
ガジロ
正気か?
ホタル、こいつに名付けは無理だ。
ホタル
あー……ハチクンはどう? 何か案ある?
ハチ
「イカリ」と「ビビリ」では?
ホタル
サギリー、こっちもだめみたい。
ハチ
どうしてジュニアなんですか。
ルヒト
雰囲気がハチより子供っぽいからです。
ガジロ
ホタルが名付けしてくれ。
ハチ
……そうですか? あれがジュニアっぽいんですか?
ホタル
僕はもう「フェイク」しか出て来ないよ、あんなの。
偽ホタル
喧嘩売ってんのか、あぁ!?
ホタル
ほら、見てあれ。
ガジロ
はぁ……。個別の名前なんかわざわざいるかよ。
どうしても区別したきゃ普段の呼び名に「偽」や「B(ビー)」でもつけとけ。
「偽八雲」とか「八雲B」とかな。
ホタル
ストレートに「偽」でいいんじゃないかなー。ね、リンクン。
ハチ
一周してしまいましたね。
ルヒト
偽さん達もそれでいいですか?
偽ホタル
はぁ? どうでもいいけど?
偽ハチ
すみません、何でも大丈夫です……。
偽ホタル
おい、そこの! お前勝てるとか言ってたろ、出てこいよ。
(ホタルが庇っているガジロを示して舌打ち)
ガジロ
相手してほしけりゃ先に新人を倒すんだな。
そいつらより弱えなら俺には到底勝てねえからよ。
ホタル
うわぁ、偽僕すごく口が悪いねー。
ハチ
……捕まえれば良いですか?
ホタル
そうだね、ふたりでできそう?
ルヒト
はい!
ハチは偽のキリツボさんの方をお願いできますか?
私は偽ハチをやります。
ハチ
はい、やります。
……分かりました。私はケイ先輩の方ですね。
偽ホタル
ふん、来てみろよ。
偽ハチ
……ひっ! いいですいいです来なくて大丈夫ですー!
(頭を抱えてその場に屈み込む)
ルヒト
怖がらなくて大丈夫ですよ。そうしてじっとしててくれれば、痛くしませんから。
(微笑み、偽ハチに近づいていく)
偽ハチ
そっ、そんなのウソですウソです! ぜーったいウソですー!(逃走)
ハチ
……自分の情けない姿って、すごく嫌ですね。
偽ホタル
ヘタレが、一生逃げてろ。
で? お前が相手?
ハチ
お相手します。正面切って、堂々と。
(間合いを詰め始める)
ルヒト
(逃走した偽ハチを即座に追いかける)
本当ですよー!
でも捕まる気がないなら手荒になるのでご了承くださいねー!
偽ハチ
つ、つかまったらいいんですか!?(急ブレーキをかける)
ルヒト
(追いつき、すぐ腕を拘束する)
はい、いい子ですね。
暴れたら痛い思いしますから、大人しくしてください。このままあっちに戻りましょうね。
ホタル
……あれって僕に似てるの?
(新人たちの様子を眺めつつ、ガジロに話を振る)
ガジロ
姿を模してるから物理的には外見は同じなんだろうな。
けどそれだけだ。誰が見ても見分けがつくくらい別人だ。
偽ハチ
うう、騙された気分です……。
ホタル
誰が見ても見分けがつくなら、姿を模す理由って何だろうね。
そもそも……あー、鏡か。鏡だね、ピアスが逆になってる。
ガジロ
姿が似てるだけで手を出せなくなることもあるんじゃねえか?
職員にはそんな甘いやつはいねえと思うがな。
偽ホタル
くっそてめえっ、馬鹿力野郎!
ハチ
来いと言ったのは、そちらですが。
偽ホタル
おい、おい! お前なに捕まってんの、役立たず!
偽ハチ
ご、ごめんなさいごめんなさい!
ホタル
言ってる間に決着つきそうだねー。
リンクン、おかえりー。
ルヒト
手がかからない子でよかったですよ。
よしよし、あの偽さんはヒドいですね。
偽ホタル
くそが!
(ハチの顔に全力で頭突きを叩き込む)
ハチ
――……っ。
(痛みで眉を寄せた直後、全力頭突き返し)
ホタル
ああ、サギリ。今の見た? そんな甘いやつはいなかったねー。
……いないかな。リンクン、その子に甘くない?
偽ハチ
ひっ!
(思わずルヒトを見る)
ルヒト
大丈夫ですよ、こっちのキリツボさんは優しい人です。
甘いつもりはないのですが……こんなに怯てる相手に危ないことはしにくいですね。
ガジロ
おい。絆されんなよ。そいつは『異常』だ。事態を解決させれば消える。情を持つな。
ホタル
サギリの言う通りだよ、リンクン。
それはあくまで偽者なんだからね?
ハチ
締めてきました。
(偽ホタルを抱え上げて戻ってくる)
ホタル
こっちはこっちで極端だなーっ! ……あ、落としちゃったの?
ハチ
失神しているだけです。
ガジロ
手足を縛り上げとけ。目ぇ覚ましたときに暴れないようにな。
ルヒト
あなたは大人しく付いてきてくれますか?
(偽ハチに問う)
ハチ
分かりました。
……しかし、随分と手ごたえがありません。
ホタル
能力も反転してるのかもしれないねー。
偽ハチ
……。
(怯えた様子でルヒトを見て何度も頷く)
ホタル
ああ、リンクン。その子、さっき逃げたでしょ?
(方針確認のため、教育担当のガジロを見遣る)
ガジロ
尾久、そのビビリも縛れ。
そいつの意思は関係ねぇ。これは安全の話だ。
ルヒト
……わかりました。
すみません、手を拘束させてもらいますね。
あなたが驚いて道路に飛び出しても危ないので、リードをつけるくらいに思ってください。
偽ハチ
……うぅ、はい……。
(怖いせいで他メンバーの顔が見られず、ルヒトだけを見て何とか頷く)
ハチ
……。
(ちょっと嫌そうな顔)
ホタル
ハチクン、そういう顔できるんだね。
ハチ
自分の顔であのような振る舞いはされたくないものです。
ホタル
んー、同感。本当に見た目はそっくりだもんねー。
サギリ、機功部に連れ帰りでいいね?
ガジロ
ああ。しっかり調べさせてもらう。
八雲、そいつは俺が運ぶ。お前は偽八雲を連れてこい。尾久は運転だ。いいな?
ルヒト
どうしてですか?
ガジロ
絆されてるやつに敵を預けられるわけねえだろ。
ルヒト
……了解です。
ハチ
……。
(偽ホタルをガジロに引き渡してホタルを見る)
ホタル
異常の扱いに関しては機功部もプロだよ。
ハチ
分かりました。
(物言いたげにしつつも従って偽ハチを引き受ける)
偽ハチ
……っ。
(びくびくしながらルヒトを見つつハチに従う)
ルヒト
大丈夫です。こっちのハチも優しい人ですよ。
(偽ハチの頭を撫でる)
ガジロ
(ハチから受け取った偽ホタルを片腕で抱えている)
尾久、早く車回してこい。
(車の鍵を預ける)
ルヒト
すぐ戻ります。
(小走りにその場を去る)
ホタル
サギリは優しいよねー。
(ルヒトを見送りつつ笑う)
ハチ
こちらも落としてもいいですか?
ホタル
大きい子は、自分で歩いてもらう方がいいかな。今のところはね。
そっちはどう? 重たく……なさそうだね?
(偽ホタルを抱えているガジロを見て)
ガジロ
気絶してる分持ちにくくはあるが、重さはそんなにだな。
あとで測定しよう。
ホタル
うーん、体重まで同じなのかな……。
あ、ピアスとかも調べてね。それと……ちょっと待ってねー。(偽ホタルの腰から脚のあたりを触れて確認する)
――うん。“映らないもの”は真似できないみたいだね。
ガジロ
ホントか? そこ気になってたんだ。
(同じく偽ホタルの腰や脚を触る。服も捲り、映らない箇所を見る)
ハチ
……?
(ふたりが何を調べているのか分からず、興味深そうに眺めている)
ホタル
そうみたいだよ、確認してみて。
視認できる範囲に限定されるのかな。けど、そうなると能力の反転が気になるよね。
(偽ホタルの傍らに屈んだまま観察を続ける)
ガジロ
(確認を促されホタルの腰や脚も触る)
ああ……確かに、違うな。
なら、見えてないっつーより“知覚出来なかった”って方が近いかもな。
能力の反転は……八雲はどう考える?
ハチ
能力が反転しているとは思えません。劣化しているようだとは感じました。
ホタル
ハチクン、それは良い表現だね!
詳しく調査しないと何とも言えないけど、解像度と再現度の問題かもしれないねー。
ガジロ
だな。外見は反転だが能力は劣化の方が正しい。
解像度やらは……いや、これ以上は憶測だな。
ホタル
単純に劣化ならいいんだけど、もし能力も反転なら厄介だよ。
特に一般人相手だと、大変なことになりかねないしね。
ガジロ
もしそうなら、な。
現状では本人よりできる部分がないから劣化としか言えん。
反転するとしてもその基準が分からねえんじゃあ、ガバい想像以上のもんは出ねえ。
ハチ
機功部では、どのように調べるのですか?
ガジロ
調査方法はそいつの前じゃ言えねえよ。
ホタル
うーん。今のところ、この子の腕力とかは分からないしなぁ……。
サンプル不足だね。
偽ハチ
……!
(三人をそれぞれ見て怯えている)
ハチ
瞬発力はありましたね。
ルヒト
お待たせしました。
……その子怯えてません?
何かありましたか?
ホタル
リンクン、おかえりー。
調査のことを話してただけだよ、だから――っと!
(急に意識を取り戻した偽ホタルに引っかかれそうになって避ける)
偽ホタル
クソがッ! 離せよっ!
(ホタルとガジロを睨みつける)
偽ハチ
あああっ、暴れないでくださいぃー!
ハチ
あなたも暴れないでください。
(偽ハチを捕まえ直す)
ガジロ
活きがいいな。そのまま暴れて体力使い果たしてくれ。
(後ろから偽ホタルの腕ごと抱え込み拘束する)
ルヒト
びっくりしちゃったのかな。大丈夫ですから車に乗りましょうね。
(偽ハチを宥める)
これ席離した方がいいですよね?
ガジロ
八雲と偽は3列目、俺とこいつとホタルで2列目だ。
それでいいか?
ホタル
もちろん。それでいこう。
三列目も僕がカバーできるようにするから、よろしくね。
ふたりとも、いい子にしてようねー。
偽ハチ
……!
(ホタルを見て、ルヒトを見て、そしてこくこくと頷く)
ハチ
奥側に詰め込みます。
ガジロ
ホタル、先に乗ってくれ。
真ん中にこいつを押し込む。
ホタル
先にこの子を後ろに乗せるねー。
はいはい、怖くない怖くないよー。
(偽ハチを誘導)
ハチ
何がそこまで怖いのですか?
(ホタルの誘導で乗り込んだ偽ハチに続いて乗り込み)
ホタル
ほら、こっちも。おいでー!
(偽ホタルに話しかけつつ先に入る)
偽ホタル
……チッ。
(勝てないと分かった様子)
ガジロ
(偽ホタルにシートベルトをかける)
八雲、何かあったらすぐに言え。
ハチ
はい、分かりました。
(偽ハチを眺めてからガジロを見る)
ホタル
リンクン、後ろのことは気にしないで安全運転お願いねー!
(偽ホタルを軽く押さえつつ)
ルヒト
はい。
では、本部へ帰還します。
(車を発進させる)
